天神さんの奇跡が宿る場所
天神さんこと菅原道真公をまつる大阪天満宮は、949年の創建。いつの時代も大阪の庶民は“天満の天神さん”にさまざまな願いを託してきた。敷地内にある「天満天神繁昌亭」は上方落語唯一の定席。笑いの中に人情があふれる。この場所の歴史を知ると、いち早く都市となった大阪の、人々の暮らしが見えてくる。
ご利益は時代を映す。大阪人の天神さん信仰
今では受験シーズンに多くの学生が参拝に訪れるが、意外にも「学問の神様」との信仰が広まったのは江戸時代。町人たちが学ぶ寺子屋が増えたところ、学問に精通した道真公のご利益にあずかろうと普及していった。
それ以前の人々が最も恐れていたのは疫病流行。創建当初から長らく「厄除けの神様」として信仰を集めてきた。また、かつては境内に能舞台があり、現在は敷地内に「天満天神繁昌亭」があるなど芸能ともゆかりが深い場所。大阪の庶民にとって大阪天満宮は心の拠り所、暮らしになくてはならない存在である。
星合の池とすべらんうどん
星合の池(亀の池)は、池に架かる星合橋で出会った男女は結ばれるという恋愛パワースポット。かつては今より大きな池で、ここでお見合いも行われていた。星合の池へは、御本殿の裏から境内奥に進み北側に抜ける門を出るか、繁昌亭の北側をぐるりと回ると辿り着く。
奥にある星合茶屋では麺に切れ目が入った「すべらんうどん」を提供。もとは目が不自由な人のために考案されたが、「受験ですべらん」「芸がすべらん」とすっかり名物に。2月には梅が見頃を迎え、夏には境内の梅で作ったさわやかな特製梅ジュースが楽しめる。
運命に導かれた悲願の定席
大阪は落語発祥の地でありながら、戦後、長らく落語の定席が途絶えていた。桂文枝・上方落語協会会長(当時)や関係者の尽力により、2006年にオープンしたのが天満天神繁昌亭。大阪天満宮が無償提供した敷地に建設された。
この界隈はかつて「天満八軒」と呼ばれ、演芸や芝居小屋が集まっていた場所。まるで運命に導かれるように誕生した繁昌亭は、戦後、消えかけていた上方落語の灯を必死で守ってきた人々の悲願に、天神さんが起こした奇跡なのかもしれない。
歴史通はここから参拝
境内で最古の大将軍社
今では摂社の大将軍社が、実は大阪天満宮の起源。7世紀、都が難波長柄豊崎宮にあった時代、都を守るためにまつられ、太宰府へ左遷される道真公が立ち寄って旅の無事を祈願した。その約50年後、都で相次ぐ災禍を「道真公の怨霊によるもの」とした村上天皇が、道真公を御祭神に、ゆかりの大将軍社の森に大阪天満宮を建てた。